1.難病相談支援センター設置の背景と新たな難病対策事業
わが国の難病対策は、昭和47年(1972年)に「難病対策要綱」が策定され、その後、平成8年(1996年)に改定され、難病相談支援センター事業は「地域における保健医療福祉の充実・連携」の事業の一つとして位置づけられました。事業の実施主体は都道府県で、事業運営の全部または一部を適切な事業運営の確保が認められる法人等に委託できるとされ、平成15年「難病相談支援センターの整備について」が厚労省から通達されてから全国に設置され始め、平成19年度末には全国の都道府県すべてに設置されました。それ以来、難病相談支援センターは地域のニーズに応じて様々な形で運営されています。
平成27年より施行された「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」においても、難病相談支援センターは重要な機関の一つとして位置づけられ、さらなる機能向上が求められています。「難病の患者が地域で安心して療養しながら暮らしを続けていくことができるよう、難病の患者に対する相談・支援、地域交流活動の促進及び就労支援などを行う拠点施設として設置され、難病の患者等の療養上、日常生活上での悩みや不安の解消、孤立感や喪失感の軽減を図るとともに、難病の患者等のもつ様々なニーズに対応し、医療機関をはじめとする地域の関係機関と連携した支援対策を一層推進するもの」とされています。
2.難病相談支援センターの実態調査から
難病相談支援センターは難病患者・家族が気軽に利用できる地域の相談窓口を設置してほしいとの当事者団体の強い要望により開始された事業です。運営主体は、全体の約2割が行政直営(行政庁舎・関連施設)で、約8割が委託という形をとっています。委託元は、約3割が難病団体連絡協議会であり、医療機関(当事者団体と共に運営している医療機関を含む)が約3割をしめています。難病法制定以降の改正された実施要綱では、保健師または難病支援経験がある看護師の配置が義務づけられていますが、保健師の配置率は全体で約6割、行政直営の難病相談支援センターでは約9割です。
(表1)難病相談支援センターの運営主体と職員配置
(出典: 平成30 年度厚生労働行政推進調査事業補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)【難病患者の総合的支援体制に関する研究】班(研究代表者小森哲夫)の分担研究「難病相談支援センターの標準化」より)
平成25年度の各都道府県難病相談支援センターの実態調査の結果では、当事者団体が運営する難病相談支援センターは医療講演・相談会の開催により病気や治療の最新情報を得ることや専門医と連携することに重点を置く傾向があり、行政や医療機関などが運営する難病相談支援センターは難病に対する理解を深める啓発や、患者交流に重点を置く傾向があることが分かりました。このことから、難病相談支援センターの事業内容や実施方法はそれぞれ運営主体によって異なるものの、各難病相談支援センターではそれぞれの機能を生かし、かつ足りない機能を補い合いながら事業を行っている実態が明らかになりました。
3.難病相談支援センターの事業内容
難病相談支援センターの事業内容については国の療養生活環境整備事業実施要綱に定められ、難病相談支援センターは保健所を中心とした既存の施策と有機的に連携し、就労支援においては、公共職業安定所に配置された難病患者就職サポーターと連携しています。
(図1)難病相談支援センターと関係機関との連携
事業の柱となる相談事業では、主に電話や面接、メールなどにより相談を受けています。難病相談支援センターに寄せられる相談を大きく分けると「療養生活相談」「支援」「難病相談支援センター事業に関すること」「患者交流支援」に区分され、その内容は多岐にわたります。その他の事業は(図4)に示した通りですが、その中でも就労支援は重点的に取り組むべき支援とされています。就労支援は患者の経済的な自立のみならず自己実現のためにも重要と考えられているからです。平成27年度から、これまでモデル事業だった難病患者就職サポーターが各都道府県に1名ずつ配置されました。ハローワークに配置されている難病患者就職サポーターは、地域の就労関係支援機関の「総合相談窓口」「連携の要」としての役割が期待され、難病相談支援センターとの役割分担も明確になりつつあります。
難病患者の就労支援には医療機関との連携が不可欠です。そのため就労支援における難病相談支援センターの役割として、病状や治療、自己管理の状況を面接や受診同席をして確認し、支援会議などで就労時の注意点や必要な環境調整に関する情報提供や助言を行っています。
(図2)難病相談支援センターに寄せられる相談内容と難病相談支援センターの役割
- 相談者が安心・安全に、自立して地域で暮らせるように療養上の課題解決を支援する
- 相談者が不安や悩みを解消するために、自分自身で気持ちを整理できるように支援する
- 相談者が喪失感・孤立感を軽減できるように支援する
- 相談者が適切な支援を受けることができるように関係機関へ繋ぐ
- 難病に関する最新情報や地域の情報を収集・整理し提供する
- ピア・サポーターの養成を行い、ピア・サポート活動を支援する
(出典:平成26-27年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等克服研究事業(難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業))研究「難病患者への支援体制に関する研究」班「難病相談支援センターの役割」に関する分担研究より)
相談対応には医師や看護師、理学・作業療法士、保健師、医療ソーシャルワーカーなどの専門職やピア・サポーター(図3)などが想定されますが、一相談支援機関では職員配置に限界があります。難病相談支援センター事業の質を確保するためには適正な職員配置が必要ですが、有資格者の確保やピア・サポーターの養成、予算上の制約などの課題があり、容易ではありません。
(図3)ピア・サポーター
ピア・サポーターとは、支援対象者と同じ立場にある支援者を意味し、難病ピア・サポートとは、同じ疾患の人あるいは同じ難病というカテゴリーの疾患の人が同じ立場にある人を支えることを指している。図は患者と支援者の関係とその中に位置するピア・サポーターを示した。支援者も難病であることもある。様々な当事者活動をすでに行っている場合もあるし、ピア・サポーター養成研修を修了して活動している人もいる。
(出典:平成26-27年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等克服研究事業(難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業))研究「難病患者への支援体制に関する研究」班「難病相談支援センターの役割」に関する分担研究より)
4.難病相談支援センターの役割・あり方
平成26年度から27年度に行った「難病相談支援センターの役割」に関する研究では「難病相談支援センターは難病に関する専門的な相談支援とピア・サポートの2つの機能を備えており、専門職とピア・サポーターは協働して事業を行い、両者はそれぞれの強みを発揮して役割を果たし相互補完する」という結論に至りました。さらに、専門職とピア・サポーターが相談者に寄り添いながら支援する身近な相談窓口というあり方を提言しました。
そして、新たに「相談者が自分自身で気持ちの整理ができるように支援する」「ピア・サポートにより、難病に罹患したために生じた喪失感・孤立感が軽減するように支援する」という2つの役割を加えて、医療機関や行政にはない難病相談支援センターの役割を明確にしました。難病相談支援センター事業における専門職とピア・サポーターの役割や業務分担については地域の実情により異なります。
(図4)難病支援センターの事業内容(相談支援とピア・サポートとの関係)
(出典:平成26-27年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等克服研究事業(難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業))研究「難病患者への支援体制に関する研究」班「難病相談支援センターの役割」に関する分担研究より)