1.病院・診療所における連携
1.医師
医師は医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するもの(医師法昭和23年成立)と定義されています。病気に関する診断を行えるのは医師のみです。
【連携の場面】
- 病気や治療、自己管理、支援上の留意点などの確認
- 就労に関する意見を確認
- 障害者手帳や障害年金など各種制度を利用する際の主治医意見書の記載依頼
2.看護師
看護師は厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とするもの(保健師助産師看護師法昭和23年成立)と定義されています。
【連携の場面】
- 入院、外来受診時の様子(身体面・精神面)などの確認
- 看護ケア、自己管理に関する相談
3.社会福祉士(医療ソーシャルワーカー・Medical Social Worker : MSW)
社会福祉士は専門的知識及び技術をもって、身体上もしくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供する者又は医師その他の保健医療サービスを提供する者その他の関係者との連絡及び調整その他の援助を行うことを業とするもの(社会福祉士及び介護福祉法昭和62年成立)と定義されています。
【連携の場面】
- 退院前の社会福祉サービス利用に関する調整
- 医師と患者のコミュニケーションに問題が生じた場合の調整
- 医療機関変更に伴う調整
4.理学療法士(Physical Therapist : PT)
理学療法士は医師の指示の下に、理学療法(身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び、電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えること)を行なうことを業とするもの(理学療法士及び作業療法士法昭和40年成立)と定義されています。
【連携の場面】
- 身体の評価に関する相談
- リハビリ・コミュニケーションツールに関する相談
5.作業療法士(Occupational Therapist : OT)
作業療法士は医師の指示の下に、作業療法(身体又は精神に障害のある者に対し、主としてその応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作その他の作業を行なわせること)を行なうことを業とするもの(理学療法士及び作業療法士法昭和40年成立)と定義されています。
【連携の場面】
- 作業能力の評価に関する相談
- リハビリ・コミュニケーションツールに関する相談
6.公認心理師
公認心理師とは保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とするもの(公認心理師法平成27年成立)と定義されています。
- 心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析
- 心理に関する支援を要する者に対するその心理に関する相談及び助言、指導その他の援助
- 心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他の援助
- 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供
【連携の場面】
- 病気による悩みや不安に対する専門的な支援の依頼
- 心理的課題への対応方法の確認
2.病棟の種類
平成30年度の診療報酬改定に伴い、より効果的・効率的に質の高い入院医療の提供を目指し、患者の状態や医療内容に応じた適切な医療資源が投入されるように入院基本料の見直しが行われました。
1.一般病棟
急性期及び重症度など医療の必要性に応じて、医療職の配置や入院期間が異なる。
2.地域包括ケア病棟
在宅医療や介護サービスの提供等の地域で求められる多様な役割・機能を持つ。
3.回復期リハビリテーション病棟
主にADL向上による寝たきりの防止と在宅復帰を目的としたリハビリテーションを集中的に行うための病棟。
4.療養病棟
急性期医療の治療終了後も病院での療養が必要な患者のための病棟。
医療区分3 | 【疾患・状態】 【医療処置】 |
---|---|
医療区分2 | 【疾患・状態】 【医療処置】 |
医療区分1 | 医療区分 2 ・ 3 に該当しない者 |
3.レスパイト入院
レスパイト入院は、在宅療養患者が一時的に入院することで、家族介護者の休息の機会をつくり、介護負担を軽減する目的で行われます。主に難病診療拠点病院に配置された難病診療連携コーディネーターが調整を行います。
4.在宅医療における連携
1.訪問診療
医師が計画的な医療サービス(=診療)を行います。1週間ないし2週間に1回の割合で定期的、且つ、計画的に訪問し、診療、治療、薬の処方、療養上の相談、指導等を通して、一番身近なかかりつけ医として在宅療養をサポートします。
2.訪問看護
訪問看護師が看護を必要としている方の自宅に訪問して、その方の病気や障害に応じた看護を行います。健康状態の悪化防止や、回復に向けて支援するとともに、主治医の指示を受け、病院と同じような医療処置も行います。
3.訪問リハビリテーション
病院、診療所、介護老人保健施設の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が利用者の自宅を訪問し、心身機能の維持・回復、日常生活の自立支援のために、理学療法、作業療法等のリハビリテーションを行うサービスを指します。
訪問リハビリテーションは、在宅生活において日常生活の自立と社会参加を目的として提供され、病院やリハビリテーション施設への通院が困難な場合、退院・退所後の日常生活に不安がある場合など、主治医により訪問リハビリの必要性が認められた場合にサービスを受けることができます。
4.訪問介護
訪問介護士が介護を必要とする方の自宅を訪問し、日常生活の支援を行います。食事や洗濯などのほか、生活上のアドバイスや精神面のサポートも含みます。身体介護、生活援助、通院介助など、生活に密着した支援です。
【事例】医療機関との連携(大学病院設置の難病相談支援センター)
多発性硬化症の事例(Aさん、30歳代、女性)
事例の概要
入院までの経過:
介護施設で介護福祉士(正社員)として勤務。力の入りにくさを自覚。近医の整形外科を受診したが、骨折等の異変を認めず、自宅で様子観察となる。その2日後、見えにくさを自覚し、近医の眼科を受診。神経疾患を疑われ、B病院にて精査のため入院となる。1ヶ月後多発性硬化症と確定診断され、ステロイドパルス療法実施。症状が安定せず、本人の希望でC大学病院に転院。
治療の経過:
転院後、免疫抑制剤などの追加により症状が寛解し、入院から4日後に退院。翌日からフルタイム勤務で復職していたが、最初に自覚症状があってから2ヶ月後に力の入りにくさと、見えにくさを自覚。当日にC大学病院を受診。再発と診断され、その後入院加療となる。
家族構成:
子供1人(小学4年生)と2人暮らし。夫とは2年前に離婚。近所に住む両親は老齢年金を取得しており、子育てなど支援をしてくれているが、本人の給与が主な収入源。
性格:
几帳面、症状に伴う不安感が強い、不安障害の既往あり(発症時は眠剤のみ)
※なお、センターは病院内に設置されているが県の委託組織であり、カルテ閲覧の権限は与えられていない。
職員は看護師、保健師、社会福祉士で構成されている。
難病相談支援センターの介入のきっかけ
C大学病院内に設置されている難病相談支援センターについて、主治医が紹介。初回入院中にセンターを来所。
1回目の復職までの支援(発症から1ヶ月以内)
院内に設置されている難病相談支援センターのメリットを活かし、主治医の意見確認を行った上で、支援方法を検討。発症から間も無く不安感も強いため、本人の語りの傾聴などストレスマネジメントも重視して対応。
[ A ]Aさん [ セ ]難病相談支援員 [ 主 ]主治医
支援1回目
[ A ]センターではどのようなことをしてもらえるのか。職場にはパートに変わるように言われていて、復職について焦っている。
[ セ ]センターでは就職前の準備から、復職、就労中のご相談をお受けしている。労働局のように強制力のある支援はできないが、職場と交渉するために一緒に考えることはできる。まずは職務規定を確認して欲しい。休職期間などの規定を確認してから対策を考えていく。
支援2回目
[ A ]職務規定を直属の上司に確認した。上司は正社員で復職できるといいねと言ってくれているが、人事課にはパートを勧められている。休職期間は1ヶ月とされていて、休み始めてからすでに1ヶ月以上経過している。
[ セ ]疾患の確定までにも時間がかかっているので、考慮してもらえるように交渉したい。主治医の意見をセンターから確認する許可が欲しい。
[ A ]自分でも不安なので、主治医の意見を聞いてもらえると嬉しい。
夕方、主治医のアポイントを取得。
[ セ ]復職前に本人へのアドバイスや配慮事項などを確認したい。
[ 主 ]寛解した状態であれば、特に支障なく生活できる。痺れなどは持続する可能性があるので、重いものを持つ時などは注意して欲しい。介護福祉士は継続していいが、できれば時短勤務から開始して欲しい。
支援3回目
[ セ ]主治医の意見を本人に説明。家族背景から、厚生年金など社会福祉制度の整っている正社員の継続が望ましいため、職務規定上困難かもしれないが、時短勤務での復職について相談を促す。また、休職期間が無給であれば、傷病手当金についても合わせて相談して欲しい。
[ A ]時短勤務も自分はあまり望んでいない。職場と相談してみる。
支援4回目
[ A ]昨日職場と相談して、フルタイム勤務で復職することにした。1ヶ月は超過したが、傷病手当金など社会福祉制度を利用することで正社員の継続を許可してもらえた。14日に退院するので、15日から復職する。
[ セ ]復職が決定したことについて労う。退院直後はまだ体調が安定しない可能性があるので、何か気になる症状があれば、早めに相談するよう勧める。センターでも復職後の継続的な支援をすることを約束する。
再発後の支援(発症から2ヶ月頃)
再発に伴う、焦燥感といらだちが見られる。復職後の職場の理解のない態度などストレスも大きく、不安感が強い。復職前に文書が求められており、書類作成について主治医と調整を行う。
支援5回目
[ A ]復職後は慌ただしく時が過ぎてしまい、相談できなかったが、昨日入院した。再発と診断され、やはりこの病気には再発があるんだと実感した。復職後は職場には病名を伝えていたはずなのに、症状を理解してもらえず、机の運搬など身体的に負担の大きい仕事もすることがあった。「普通に見える」や「さぼらないでほしい」など心ないことを同僚に言われることもあり、無理して動いてしまった。今回の再発も、入院が頻回すぎると人事課に注意された。正社員での復職は難しいかもしれない。
[ セ ]復職後の体調など傾聴。まずは療養を優先し、心身ともに休養を取るよう勧める。
<不安感が強く連日来所する>
支援6回目
[ A ]職場から退職を促された。社会保険料が職場の負担になっているようだ。できれば今の職場は慣れているし、仕事も好きだ。復職したい。
[ セ ]職場の人間関係がストレスになっているようなので、退職の選択肢もあることを説明したが、復職を強く希望しているため、主治医の意見を確認。夕方、主治医のアポイント取得。
[ セ ]今後の治療の見通しと復職に際して助言をいただきたい。
[ 主 ]免疫抑制剤から生物製剤に変更し、ステロイドをしばらく継続する予定。再発の可能性がないとは言えないが、現状安定傾向。時短勤務からの復職であれば、介護福祉士の継続も可能。本人が無理をしやすいようなので、周囲の理解を得る工夫は必要。
支援7回目
[ A ]職場に復職希望について相談したところ、主治医の意見書が欲しいと言われた。
[ セ ]事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドラインを紹介し、治療の状況や就業継続の可否等について主治医の意見を求める際の様式を参考に主治医意見書を作成していただくよう助言。前回の入院時にすでに休職期間は終了しているので、パートでも継続したいか、パートであれば退職するか、検討しておくよう伝える。センターの介入も可能だが、外部の介入を敬遠する職場もあるため、本人が交渉できるように一緒に検討する。
支援8回目
[ A ]主治医の意見書を用いて職場と交渉したところ、パート勤務での復職を許可してもらった。正社員の継続はできなかったが、ひとまず慣れた職場に復職できるのでホッとしている。人事課や上長から同僚にも症状について説明してもらうようにお願いした。
在宅療養の調整・関係機関との連携(発症から2ヶ月頃)
復職の交渉と同時進行で、在宅生活援助についても相談あり。障害者手帳には該当しないが、本人が直接障害者相談支援事業所に相談。障害者相談支援事業所からセンターの介入を求められる。主治医、院内地域医療連携室の社会福祉士、訪問看護ステーションの訪問看護師、障害者相談支援事業所の支援者カンファレンスに出席。関係機関の連携を図る。
[ 障 ]障害者相談支援事業所 [ 主 ]主治医 [ M ]社会福祉士 [ 訪 ]訪問看護師 [ セ ]難病相談支援員
支援9回目
[ 障 ]まずは疾患について知りたい。事業所では多発性硬化症の方の支援実績がなく、不安。本人は現在不安や焦りから様々な支援機関に相談している状況なので、支援機関同士で同一の方向性で支援できるよう準備したい。
[ 主 ]疾患について説明。今後も再発の可能性はあるため、訪問看護で継続的に様子観察をしてもらえれば、本人は安心するかもしれない。
[ 障 ]本人からは訪問看護と通院介助を求められている。ただ、通院介助のみの契約を結べる事業所は限られているため、今後難航することが予想される。通院介助はなぜ必要なのか。
[ 主 ]平時はあまり必要ないかもしれないが、再発時は力の入りづらさや見えにくさがあるので、通院介助があると安心。近所の家族が高齢のため、同行が難しいと聞いている。
[ M ]本人と病棟で面談済み。症状が安定してきているが、不安感が強く、自ら様々な支援機関に連絡しているようだ。それぞれの機関が業務の範囲を説明し、本人が混乱しないように努めたい。
[ 訪 ]本人と面談済み。退院後の不安感などは週1回の訪問の際に傾聴していく。平時に最も多く接することになるので、異変があれば障害者相談支援事業所へ連絡する。
[ セ ]センターでは主に就労相談を担当。復職などに対する不安も強いため、継続的に支援していく。
[ 障 ]今後も関係機関で連携していくことを確認。
復職後
2度目の退院後再発なく1年が経過。復職時にパート勤務に変更したため、そのままパート勤務を継続。正社員への復帰を目指している。センター主催の交流会にも積極的に参加し、患者交流を通して徐々に前向きに生活している様子。