多くの病院では地域医療連携室や医療福祉相談室等の部署に、患者さんの生活を支援するソーシャルワーカーという専門職がいます。そこで行われているソーシャルワーカーによる具体的な支援や対応を紹介します。
1.医師と職場の上司と一緒に考える場をつくる
多くの相談者は、病気や障害を他者に理解されないという悩みを抱えています。一方、職場側は、どのような配慮が必要なのかわからず、戸惑っていることがしばしば見受けられます。
そこで、担当医と本人、職場の人を交えた面談の場を設け、担当医から病状や健康管理上配慮する点などについて説明し、理解を促します。このような話し合いの場を症状の進行や就労の状況に応じて、複数回設け、難病のある人の就労生活を支えていきます。ここでは、職場の人と医療関係者が「顔が見える関係」を築くことが大切です。
2.職場環境を整え、事業者や職場が利用できる制度を紹介する
病状に応じて、職場環境において具体的にどのような工夫や改修が必要かを、難病のある本人と職場の担当者、作業療法士等と一緒に考えます。時には作業療法士とともに職場へ出向き、本人の心身機能に合わせた職場環境の改修を提案します。例えば、机の高さ、パソコンのマウスの位置、トイレの改修等です。改修や物品購入費用には、「障害者雇用助成金制度」等の制度を利用できることを紹介します。
事例13 働く場への「介護者」派遣を支援
A氏(筋萎縮性側索硬化症)は、排泄介助が必要になり、「潮時かな(仕事を辞めるとき)」と考えていました。しかし、技術者としての能力、後輩育成の役割と期待は大きく、本人もそれに応えたいと考えていました。しかし、職場には、「仕事のサポートはできても、食事や排せつ、移動などの一般的な生活支援や介護を同僚に担わせることはできない」というのが現状でした。
現行の制度では、介護・看護支援事業所による居宅以外の介護・看護者の派遣は認められていません。職場介助員制度もありますが、外部の事業所からの派遣は想定されておらず、利用実績もほとんどありません。そこで、個別にいくつかの訪問介護事業所と、職場内でのケアの提供を相談しましたが、費用の自己負担が大きいことや部外者が職場に入る等のセキュリティの問題があげられました。
本人、職場、介護事業所との話し合いを重ね、費用は会社側が負担するということで、ヘルパーを3時間/日利用できることになりました。同時に、ヘルパーが安心してケアが行えるように、看護師とともに職場を訪問し、具体的なケア方法を伝える機会を設けました。
3.障がいの有無にかかわらず、一人ひとりが大事にされる組織づくりへの提案
上記A氏の上司は「障がいがある社員を排除しない、一人ひとりが大事にされ、より強い組織になるという経験をさせてもらった」と話しました。会社と病院が協働し、A氏が働き続けることを可能にした過程を振り返る中で、A氏の存在が職場を変えていったことを実感していました。
このように、難病のある人が自らの思いや働く上での課題を発信することは、職場や地域、社会が変わるチャンスを生み出すと捉えることができます。他の病気やけが、介護や育児など、それぞれに事情をもつ労働者は職場に多く存在します。支援者は、「難病のある従業員に向けた事業所の配慮は、働くすべての人が働きやすい職場環境づくりに繋がる」ことを事業者や職場に伝えています。
4.「働くこと」の意味を問い「自分らしくある」ことを受けとめる支援
就労に関する相談の際に、相談者に「あなたにとって働くとはどういうことですか」と問うと、「生活のため」「働くことは生きることそのもの」「病気になってしまったけれど、働いていると生きていることを実感できる」等の様々な答えが返ってきます。
働く意味を本人が自らの言葉で語ることは、自身の生き方を価値あるものとして受けとめ、「自分=難病」ではなく、「自分らしくある」ことを大切に受け止め、支援することにつながっています。
【コラム】医療ソーシャルワーカーによる就労支援
医療ソーシャルワーカーは、難病の診断・治療が行われる医療機関の地域連携室や入退院支援室、相談室等に配置され、難病のある人の生活支援のために医療と地域を結ぶ、架け橋的な役割を担っています。
①相談者の思いを大切にしながら支援をつなぐ
「いつまで仕事を続けられるだろうか」「このまま仕事を続けても大丈夫だろうか」と、進行する難病のある人は「今は大丈夫、でも、いつかは・・・」という漠然とした不安を持っています。このような場合には、担当医に、同病患者のおおよその病気の進行程度を確認することを提案したり、直接担当医に、「○○さんに説明してください」と依頼したりすることもあります。
相談者は、「自分の問題に向き合い、解決したい」という思いで相談しています。医療ソーシャルワーカーの役割は、そのような相談者の思いを大切にしながら、担当医や地域の支援者・支援機関とつながり、相談者が解決の糸口を探せるように支援することです。
②職場の産業保健スタッフや上司と一緒に考えることを提案する
「力が入らず、重い物が持てなくなった」「通勤途中で転倒した」「強い眠気にたえられない」、このような相談があった場合は、退職を考える前に、職場の産業保健スタッフや上司と一緒に解決策を考えることを提案します。
③病気を開示する際の注意を伝える
「職場に病気のことをどう伝えたら良いか」「どうしたら理解を得られるか」「車いすになった場合、職場の協力が得られるだろうか」等、病気を開示することは、職場の理解や配慮を得るために必要です。時には、誤解や偏見を生む場合もありますが、職場の理解を得た上で、就労を継続できた例はたくさんあります。担当医と、難病相談支援センターや患者会などに相談しながら、準備をした上で病気について伝えることが重要であると伝えます。
④制度がないとあきらめずに、まずは相談をしましょう!
「職場で介護者を伴うことが許されない」「通院介助に対して公的制度の支援が受けられない」等、現行の制度(居宅生活介護のみ)では相談者のニーズに応えられない場合があります。
このような場合は、「制度がないから」とあきらめずに、事業所や公的制度の申請窓口に相談してみることも大切です。ハローワークの専門支援窓口や難病相談支援センターに相談して、一緒に交渉方法を考えることも一案です。過去には、現行の制度では解決できなくても、その事実を声に出すことによって制度を変えることにつながった例もあります。また、地域によっては、市町村の独自事業で対応した例や事業所の費用負担により、職場で介護サービスが受けることができた例もあります。
⑤通院している医療機関の医療ソーシャルワーカーに相談してみましょう!
難病と診断され、誰にも相談せずに退職する人や幼少時の発病で「就労は無理だ」と思いこんでいる人もいるためか、医療ソーシャルワーカーに寄せられる就労に関する相談は多くはありません。
しかし、難病のある人は、継続的な治療や検査、リハビリテーション等、かならず医療機関に通院して、医療スタッフ(医師、看護師、医療ソーシャルワーカー等)と関わります。病気や治療、制度等のことだけでなく、就労に関する悩みや不安がある場合には、通院している医療機関の医療ソーシャルワーカーや身近にいる医療スタッフに相談してみましょう。
事例14 医療機関における就労生活支援(作業療法士による支援)
―病気の進行に伴い、家庭内の役割と就労の継続が不安視された事例への介入―
難病のある人の多くは、生活に困難さを抱えながらも社会参加をしたり、または「いつかは社会参加したい」と考えたりしています。
リハビリテーション(以下、リハビリ)は、一般的に、マッサージや筋力トレーニング、歩行練習等の身体を動かすことを中心とした動作の練習イメージがありますが、それらに限らず、福祉用具や自助具(動作を補う簡易的な道具)の選定・適合評価、生活しやすい住宅改修の提案・外出手段の検討など、障害をもつ人が健やかに生活を送るために包括的な視点から提案されています。
男性(28歳)は、10歳の時にシャルコー・マリー・トゥース病(CMT)の診断を受けました。症状は徐々に進行し、現在は重度の四肢麻痺で電動車椅子を利用し移動しています。在宅勤務で週38時間のパソコン入力業務を行なっており、妻と長男(4歳)、長女(1歳)を養っています。
「仕事をしていると首と右手が痛くなる」「このまま仕事ができなくなるのかな」という不安を口にしたため、現状の生活環境で身体にどの程度の負担がかかっているかを評価したところ、食事動作環境とパソコン作業環境を改善することで、負担を軽減できることが分かりました。
さっそく写真のような自助具の作成と環境調整を行い、痛みを軽減できました。
食事自助具の作成(右が改善後)
パソコン作業環境の調整
食事:作成した手関節固定装具にフォークを固定するパーツを取り付けることで片手での食事が可能になりました。
パソコン:パソコン台の設置・新たなマウススティックの作成、右上肢の肘置き台を設置し、不良姿勢を修正しました。結果的に身体的な苦痛の訴えは軽減したため、その後は身体機能のメンテナンス、経過観察で支援を続けました。
3年後、再び「父親としてしっかり仕事をして稼ぎたいが、頑張ると右手が辛くなり、妻が子ども2人と自分の食事介助をしなければならず心苦しい」という訴えがありました。実際に上肢筋力の低下も確認され、1日を通し上肢を酷使する活動は困難になっていると判断し、写真のように上肢の空間操作を助ける福祉用具を導入しました。
この援助により、男性は子どもの口にご飯を運ぶ動作や子どもと遊ぶ場面で以前は出来なかったことができるようになり、家庭でも父親としての役割も果たせるようになりました。
この事例のように、リハビリでは、病状の進行に合わせて福祉用具の導入等を検討します。ところが本人が「今の方法が良いか悪いか考えたこともないし、考えたところで自分にはわからない」と話す場合も少なくありません。そして、少しずつ機能低下が進行していく過程で、なんとか自分で出来るように様々な工夫を試みたものの、自己流の動作方法で無理な姿勢を続けたために逆に痛みが出てしまう場合もあります。
病気の進行により、身体機能の低下があっても、環境調整や適切な機器導入により活動レベルが維持されたり、新たに活動範囲が広がったりすることがあります。リハビリは身体機能を維持したりするものだけでなく、あなたらしい生活を送るために専門的な立場から支援していますので、身体の動きや日常生活上の活動に違和感があった時には、身近なリハビリスタッフに、気軽に相談してみてください。一人ではなく、一緒に考えて解決していくことが大切です。